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おてつたび、やってみた。(第4話)~最後の晩餐~

おてつたび、やってみた。(第3話)~実録:お金を稼ぐのはラクじゃない~ に続く

(お断り)この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

それにしても、このお宿。
そこら中に納品書や領収書、さらには数ヶ月前の請求書が散乱しています。
これはあまり良い状況ではありません。
若い頃、銀行に勤めていたときに「問題与信先管理マニュアル(*)」に載っていたヤバい会社の典型例です。
(*)潰れそうな会社の兆候を見分けて債権を回収するための方法書
このお宿の経理事務はどうやって処理しているのだろうか。
気になってオーナーに聞いてみました。
すると経理担当の社員は辞めてしまい、いまはオーナーが適当にやっている、と。
予想通り、キャッシュフローが全然回っていないようです。
そりゃ、そうでしょうね。
督促状がその辺に放置してある段階で正常な経営状態ではありません。
聞けば、オーナーはかなりの金額を自分の財布から会社に注ぎ込んでいるようでした。

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騙されて社長にさせられた

オーナーは「騙されて社長にさせられた」とこぼしていました。
ふむふむ・・・。
「社長に騙された(;_;)」という話はよくあります。
しかし、「騙されて社長にさせられた」というのは、あまり聞いたことがありません。

事情を聞いてみると、オーナーはもともとはこの辺の古びた民宿のオヤジでした。
しかしそこにある日、東京からコンサルの男がやってきて、
「今流行のオーベルジュに改装しないか」
と提案を受けたそうです。
民宿が海に面した好立地だったので目をつけられたのでしょう。

怪しいコンサル男

・改装資金は私たちが準備するので心配しなくていい。
・補助金や助成金、借り入れなど全て準備するので、オーナーの負担はない。
・民宿が高級リゾートになれば、観光客が増えて地域の町おこしにもなる。

そう町役場や観光協会にも乗せられ、気づいたら多額の借金を抱えたのだとか。
7年前にコンサルが作った経営計画書を見せてもらったら、滅茶苦茶な計画でした。
地元の地銀、信金だけでなく怪しげなノンバンクからも借り入れをしていました。
私募債まで発行しているというのに、本人があまりよくわかっていない様子です。
その後、借金は減るどころか、コロナでかえって増えてしまったそうです。

その上、たぶん建築後になにもメンテナンスをしていないのでしょう。
まだ開業してから5年しか経っていないのに建物は痛みが目立ちます。
建物の周りは雑草がボーボーでクモの巣だらけ。
電気が消えていると廃屋のように見えなくもありません。
レストランの椅子の下にもびっしりクモの巣が張っています。
お客が気づいたら怒るかもしれません。

わずか5年しか立っていないのに建物は木部の痛みが目立つ

厨房より経営のおてつだいが必要だ

毎晩オーナーの悩みを聞いているうちに、これは深刻な事態だと思いました。
厨房よりも経営のお手伝いのほうがはるかに必要です。
経費節減のため、できることから始めました。
まずはネット銀行口座を開設。
オーナーは振り込みのために毎日いつも街の銀行まで軽トラを走らせています。
「銀行の窓口の◯◯ちゃんに会うのが楽しみだ」というのですが、スマホで振り込みのほうが安くて早いはずです。
オーナーのスマホにセキュリティアプリをインストールして、使い方をレクチャー。
クレカ決済のAirpay(リクルートのAirレジ)は使いづらい上に支払いサイトが長いので、かわりにUsen payを導入。
Usen payだと売上が最短で翌日入金されます。
QRコード決済端末をセッティングしたり、お掃除ロボットを導入したりとできることから次々着手。
人手不足なので、とにかくDX化を進めていく他ありません。

「なんとかオーナーさんを助けよう」
「とにかく売上を上げよう」

この一心で料金メニュー改定やオプションメニュー開発まで考えました。
ただのお手伝いなのに、資金繰りや経営計画まで見る羽目になりました。
当初は6日間のお手伝いの約束でした。
私は自分の会社の仕事があり早く帰りたかったのですが、どうしてもメニュー開発が終わりません。
仕方なく東京の商談を見送ることを決めて数日延長し、結局私が働いたのは9日間。
しかし、最後の日にオーナーと大喧嘩になってしまいました。
銀行最終営業日の月末でした。

月末の夜は決戦

月末はどこの会社も銀行支払いの期日です。
オーナーに記帳してきた通帳を見せてもらうと残金が数千円しか残っていません。
入金もあるけど、それ以上に出金が多く、これ以上引けない状態です。
たぶん自動引き落としできなかった支払いがあるはずです。
これはやばい。

オーナーに聞いたら、今日期限の請求書が何十万円も払えなかったといいます。
その割に「しばらく待ってもらうほか無い」とノホホンとした様子でした。
普通は支払いがなければ向こうから催促の電話がかかって来ます。
だから、こんなトボケた態度はありえません。
今月だけでなく、ここのところずっとこんな状況だということでした。
電気まで止められたことがあるといいます。
この人にとっては延滞が当たり前になっているのです。
クレジットカードもブラックになっているそうです。
そういえば、お掃除のパートさんも「お給料が遅れている」と言っていました。

借金を延滞?

聞くと銀行借り入れも元本返済ができなくなっているといいます。
1億円近い借り入れがあるので、毎月数十万円が約定弁済として銀行口座から引き落とされるはずです。
しかし、通帳を見ると確かに毎月15日の返済がわずか数万円しかありません。
これはまさか金利しか払っていないのでは・・・?
ビンゴ。
元本はとても払えないので、金利払いだけで勘弁してもらっているそうです。

「銀行の兄ちゃんは頑張れ、応援してる、というんだ」
とオーナーは笑顔で言います。
いや、そうじゃないだろう。

銀行も見放した

金融庁のガイドラインでは要管理先から破綻懸念先に相当する印象です。
いつ倒産しても不思議なく、銀行としては貸倒引当金を積まざるを得ない状態です。
夜なのにオーナーの携帯には督促の電話がじゃんじゃんかかってきています。
この業界(飲食店)の督促は昼ではなく夜にかけてくるそうです。
このままで良いはずがありません。
この先どうしたら良いのだろう。

緊急止血が必要

テーブルの上にはオーナーが温めてくれたインスタント天ぷらうどんが乗っています。
私はコップの水を飲みながら、真剣な提案をしてみました。
年末年始をもって一旦営業休止し、私的整理に踏み切ってはどうか、と。
ダラダラ営業を続けても出血が続くばかり。
1、2月の荒れた日本海を好んで訪れる観光客が多いとは思えません。
オーナーの母上の年金まで手を付けている状態で、まずは緊急止血が必要です。
そのうえで債権者との協議を直ちに始め、大胆なリストラ策を遂行。
来春からの営業再開を目指す計画です。

「1000万円を出資してくれないか」

オーナーは黙って聞いていました。
すると突然ニヤリと口を開き、「1000万円を出資してくれないかな」と言ったのです。
1000万円?
驚きの言葉でした。
この男は、俺の話のいったい何を聞いていたのだろう?
俺も一応は不動産屋だから、イザというときに備えて多少の現金は常備しています。
1000万円くらい、ないわけではない。
だけど、、、、。

俺はここでは時給1000円のアルバイト(お手伝い)です。
億単位の借金がある会社に、なぜ俺が出資しなければならないのか?
返済義務のある貸付ならまだ分かる。
出資となると返ってこないお金です。
もともと返すつもりもないだろうが、仮に1千万円出したって負債は1億円超え。
なんの解決にもならないし、焼け石に水とはこのことだろう?
さんざん借りれるところから借りまくってドボンか?
立花孝志じゃあるまいし、無責任にもほどがある。
オーナーの経営者としてあまりにトボケた言い草に、俺は完全に切れてしまいました。
机をガンと叩いて、こう言いました。


「お前は1千万円の重みが分かっているのか?」
「人様からカネを借りる態度ではない」
「月末なのに、なんで払うものを払わないんだ」
「お前が払わないおかげで向こうの会社もいま困っている」
「相手の会社が倒産したらお前の責任だぞ」
「いつも言い訳ばかりで、人の善意を無にしやがって」
「だからお前の周りにはいま誰もいないんだ」
「お前はワンオペで苦しいというが、身から出た錆だろう」
「これだけ世話になった俺の最後の夜に、このクソ不味いうどんは一体なんだ?」
「こうやってお前はいつも人を裏切ってきたんだな」
「借りたものを返せないなんて人間のクズだ」

汚い言葉で、俺はオーナーに言いたい放題ぶちまけました。
「俺は数千万円儲けるはずの商談を棒に振ってまで手伝ってやったのに」
とにかく裏切られた思いで、怒りが腹の底からフツフツと沸いていました。
俺の会社でもこの日(月末)に払ってこない奴がいたので怒りが倍増していました。
オーナーは俺のあまりに激しい剣幕に、ただうなだれて頭を下げるだけでした。

最後の晩餐

おてつたび最終日に支給された晩飯。賞味期限切れの天ぷらうどん(侘しい)

最後の晩餐は賞味期限切れのインスタント天ぷらうどん、ひとつだけでした。
普段は美味しい賄いを作ってくれるオーナーなのに、珍しいことでした。
オーナーはいつもの残り物の海鮮パスタ。
きっと疲れていて、それだけ余裕が無かったのでしょう。
沈黙が続く中、うどんを一口含んでみましたが、
古い天ぷらは油っこくて胃がもたれます。
飯を食っている状況ではない。
オーナーも箸が止まっていました。
うなだれて口を閉ざして、なにも語ろうとしません。
俺は、ふやけた天ぷらうどんをぜんぶゴミ箱にぶちまけて、厨房を後にしました。

後悔先に立たず

その後、部屋に戻って考えました。
オーナーは月末のこの日、朝から一日資金繰りに奔走していたのかもしれない。
経営者兼シェフとして、朝からろくに飯も食わず走り回って、宿ではフライパンを振り、やっと一日の仕事を終えたオーナー。
その人に、自分はなんとひどいことを言ってしまったのだろうか。
罵声を浴びせたって、なんの解決にもなりゃしない。
もっと前向きな声を掛けてやるべきじゃなかったのか。
せめて同じ経営者として力になれることはなかったのか。
これじゃただのパワハラ男だ。
またやってしまった。
こう後悔しても、もはや後の祭りでした。

次の日、俺はあまりのバツの悪さにオーナーに顔を見せることもできず、そそくさと荷物をまとめて帰郷しました。
こうして、俺の短い「おてつたび」は終わりました。

「おてつたび」まとめ=もらったお給料

いろいろなことを書きすぎました。
この物語はフィクションです。
信用不安につながらないようデフォルメして書いたつもりですが、読者様におかれては間違ってもSNSで拡散されないようご協力お願い申し上げます。

そして最後に、お金の事だけまとめましょう。
9日間働いて、お給料は締めて76,295円でした。
給料はおてつたび会社から月末に銀行振込で支払われます。
おてつたび会社はマージンを乗せて翌月にオーナー(お宿)に請求するようです。
払うお金あるかな・・・?
まあいいか。

私は自分で確定申告するので、税金を引くと手取り5万円弱になります。
新幹線で東京から福井まで往復すると3万円以上かかるので、交通費自己負担であることを考えると実質1万円ちょっとの計算です。
9日間働いて1万円と考えるとまったく採算が合わないというのが実際のところです。
「おてつたび」の光と影というところでしょうか。
私のように時間とお金に余裕のあるシニア世代には良いでしょう。
トラブルも旅の楽しみと考えれば、これまた一興ですから。
でも、現役世代の方が貴重な休みを費やしてまでやるものではない、というのが率直な実感です。

これから「おてつたび」を始める方に、あくまでひとつの物語として、なにかのご参考になれば幸いです。
ここまで長文を読んでいただき、ありがとうございました。

繰り返しますが、この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

(蛇足)
9日間も現地にいたお陰でリゾート開発と補助金の深い闇についても気づいてしまいました。
補助金が人間を蝕み、街を不幸にするという生々しい実例です。
どうして私は税金の無駄遣いにすぐ気づいてしまうのでしょうか。
悲しい性です。
私はもう政治家ではありませんし、まだ現地で暮らしている方がいます。
そんなことを考えると記事にすべきかどうか悩むところですが、いかがしたものか。
ご興味がある方はコメント下さい。
読者の要望が強ければ、いずれ記事にしようと思います。



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